ザレゴト

読書会のあとで
投稿日: 2025-10-23 16:49
読書会、行ってみた。

玄関を出る前に、何度もやめようと思った。
化粧も途中で気が変わって落としかけたし、
服も決められなくて、結局グレーのカーディガンにした。
「無難」って言葉はあまり好きじゃないけど、
今日の私はその言葉に守られていた気がする。

カフェは思ったより小さくて、
木の香りがして、
エスプレッソマシンの音が定期的に鳴ってた。
入口のドアが開くたびに風が入って、
テーブルの上の紙ナプキンがふわっと浮いた。
その瞬間に少しだけ緊張がほどけた。

読書会っていっても、みんな真面目に文学を語る感じじゃなくて、
「この一行が好き」とか「ここで泣いた」とか、
そういう素朴な話をしていた。

私はあんまり話せなかったけど、
隣の席の人が、読んでる本に挟んでいたドライフラワーを見せてくれた。
「去年の夏に拾ったやつなんです」って。
それが、少し色あせていて綺麗だった。

その人が笑った瞬間に、
“ああ、人の笑顔って音があるんだな”と思った。
静かな場所なのに、
その笑い声だけがずっと耳の奥に残っている。

会が終わって外に出ると、
空がうっすらオレンジ色だった。
日が落ちる少し前の、
夕暮れと夜の間みたいな色。
風が強くて、持っていた紙のカップが少し潰れた。

歩きながら、胸のあたりがざわついて、
でもそれが不安じゃなくて、
何かが動き始める音みたいだった。

家に帰ってジャム瓶のカスミソウを見た。
まだ枯れていなかった。
ほんの少し茎が傾いて、
光の当たり方が昨日と違っていた。

机の上に新しく買った本を置く。
表紙には「ささやかな日々を拾いなおす」って書いてあった。
その文字をぼんやり眺めながら、
今日の出来事を思い返していた。

会の帰り際、
誰かが私に小さく会釈をしてくれた。
名前は聞けなかったけど、
あの一瞬が、心のどこかに灯りを点けた気がする。

明日、また同じ時間に目が覚めたら、
カーテンを少し早く開けてみようと思う。
光がどう差し込むのか、
ちゃんと見てみたい。

そう思える夜は、
たぶんもう、孤独じゃない。